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「おつ!こりあいかん」
「だいぶ、様子が変りましたな」
家督を継いだ文太郎が間もなく酒造業をやめた時に、直造は少からず不満だつた。文太郎は種々の理由から説得した。が、最大の理由は法学士だつた文太郎が帳付よりも地方政治に興味を持つていたことにあるらしい。果して、文太郎の濫費のために一時は不動産の大半が銀行担保に入つたことがある。直造は不機嫌だつた。しかし、欧洲大戦が始つて以来の好景気が鍵屋の財政を持ち直しはじめていた。
房一は話を変へた。
「怪我人ができたのかね」
さう云ひながらぽんと軽く下腹をたゝいた盛子の巧みな、しなのある手つきが目に浮かんだ。それは、そこだけ切つてとつたやうな鮮かさで残つていた。
「あゝ、さうだつた。なあんだ!」
「いや、そんなこたあ、――そんなこたあしませんよ」
「お噂はうけたまはつています」
「ほう。元気だね。ハッパでやられたかね」
「いつこちらへお帰りでしたか」
と、ゆつくりはじめた。
「去年はなかつたんですよ。何でも博労ばくらう同士のうちわ揉もめがあつたとかでね」