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    と、彼は恐しく手まどつて答へた。

    が、それは徳次であつた。

    さう云ふ房一の前に立つて、徳次は子供が手いたづらをするのとそつくりな様子で傍にひよろ長く生えていた草を片手でむしりとり、口にくはへた。さつきはじめて傍へ近よつたときのやうに、彼の顔は又紅らみどこか力んでいる表情を浮かべながら、口のあたりをもごもごさせた。

    私は東京にいたころから、一日に三度四度ずつ入浴する習慣だった。しかし、うすい木でつくられた普通の沸し風呂では、冷めるのが早く、たけば熱く、こんな忘我の状態を経験することはできなかった。

    「ふむ」

    その時、練吉はぐつと盃をつきつけた。

    「へーえ」

    房一はまだ考へ深さうにしていた。

    「捕虜が内地へ送られるさうだよ」

    「畜生、おぼえていろ。」

    突然、練吉の顔には一種の生気が、何となくもう一人の練吉といつた風なものを思はせる疳の気配、子供染みた我儘さが顔にさし、あのひつきりのない目瞬またゝきが止んで、切れの長い目が眼鏡の奥でぢつと線を引いた。

    と、相手は慌ててその筒抜けな声を庫裡の居間に向けて放つた。

    「まだなかなかでせう。永いこつてすよ」

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