貴方の見ているドメインは
このページについて
私は別にそれがどんなものかは聞きはしなかった。彼女の言葉に同感の意を表して、やはり自分のあれは本当なんだなと思ったのである。ときどき私はその「牢門」から溪へ出て見ることがあった。轟々たる瀬のたぎりは白蛇の尾を引いて川下の闇へ消えていた。向こう岸には闇よりも濃い樹の闇、山の闇がもくもくと空へ押しのぼっていた。そのなかで一本椋むくの樹の幹だけがほの白く闇のなかから浮かんで見えるのであった。
「さあね、そいつは今のところ何とも判らんでせうな。何しろこの前に手をつけたのは十年前だつたでせうかね、その時の礦石のかけらも残つちやいませんよ」
「このまゝでは責任者を出さなくてはならなくなる。手落ちは向ふにあるとしてもですよ」
「それで、――どうかね?」
練吉は一人で感心し、それでも足りないと見えて、房一に呼びかけた。
「やあ、今晩は」
「さう、カワラケ、カワラケ云ひなさんな」
「なんですよ、あんまり貴方あなたの評判がいゝもんですから、さういふ方ならぜひ一度自宅うちでも診ていたゞきたいと思ひましてね」
と、何か文句にならないことを口の中で云つて、もう一度低いお辞儀をかへした。
黒い影はぴよこりとお辞儀をした。それから台所から射す光りの中に全身を現すと、それを眩しがつているとも照れたとも見える表情を浮べながら近づいた。
「せんせい!」
「まづい、まづい。酒がまづくなる」
急いであたりさはりのない返事をすると、今泉はもう隣りの人の方を向いて挨拶をした。