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「まづい、まづい。酒がまづくなる」
と云つたまゝ、もの珍らしげに、しばらく眺めていた。それから、相手にその意味が判るやうに微笑をし、目くばせをしながら、
「水はこんなにきれいでたつぷりしているだらう。鯉だつて鮒だつて、鯰なまずも、ハヤも、鰻うなぎ、アカハラ、それに鮎は名物だらう。こんなに沢山魚のいる河が他にありますかい」
「ほう、往診かね」
貰った方でもそのままには済まされないから、返礼のしるしとして自分が携帯の菓子類を贈る。携帯品のない場合には、その土地の羊羹ようかんか煎餅せんべいのたぐいを買って贈る。それが初対面の時ばかりでなく、日を経ていよいよ懇意になるにしたがって、時々に鮓すしや果物などの遣やり取りをすることもある。
「坊は?」
男は眼を閉ぢたまゝだつた。
徳次は笊を差出した。
「おとうちやん、どこへ行くの」
そして、少し横手に身をひきながら、しげしげと房一を眺めた。感慨無量、と云つた態ていであつた。
「先づそのうちには、町内の様子もいろいろお解りになることでせう。これでなかなか面倒なこともありましてな」
「まあ、――上の町の大石さんとこ位は行つとくのもよからうが」
と、今やうやく気づいた盛子が叫び声をあげた。